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フィンテック先進国へ!インドの高額紙幣廃止の思惑がスゴすぎる!

中国ではなく、今日はインドについて。

 

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インド高額紙幣廃止の概要

 

2016年11月に突然高額紙幣を廃止すると発表したことは記憶に新しいかと思います。

 

ざっくり言うと、

 

「500ルピーと1000ルピーを今(発表時)から4時間後にはお金として使えなくします。銀行に預金するか新しいお金に交換してね」

 

という内容でした。

 

インド中が混乱したそうです。当たり前ですね。

ただ、そこにはインドの大きな構想を実現する為の戦略があったと言われています。

それがまさにフィンテック特にモバイル決済・電子決済の推進です。

 

インドのスマホ環境は急速に成長見込み

 

まず、インドの決済事情をマクロ視点で見てみましょう。

 

以下の通り、人口は13.5億人(+8%)に増加するのに対し、ケータイユーザーは12億人(+20%)、スマホユーザーは5.2億人(+117%)になる見通しです。

急速にスマホの普及が進むと見込まれています。

 

        【2015年−2020年 デジタル環境の変化予測】

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(出所)BCG-Google Digital Payments 2020

 

低い銀行口座・クレジットカード普及率が追い風に 

 

ここで、インド人の銀行口座保有率・クレジットカード保有率など決済環境がどうなっているのか、もう一度見てみましょう。

銀行口座は53%、クレジットカードは4%の人々しか保有しておりません。現金での商取引、現金でのタンス預金というのが当たり前の世の中でした。

 

つまり、前回の記事 

startup-china.hatenablog.com

 

でもお伝えした通り、こうした新興国の不便 × スマホ普及」により既存のサービス(クレジットカードなど)を一気に飛び越えて、最新のサービス普及が進んでいます。(よく英語の記事では、”Leap frog”=飛び跳ねるカエル、と表現されています)

 

モバイル決済もその一つ。そしてインドはその中でも中々ぶっ飛んでいます。

 

インドのぶっ飛んだモバイル決済活用・促進法

 

まずはこちら。

 

例①:お布施はモバイル決済

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インド最大のモバイル決済業者であるPaytm(ソフトバンク・アリババなどから出資を受けている)QRコードが設置されています。このバーコードをスマホで読み込めばお布施完了♪

ハイテクです、、

 

 

例②:電子決済の啓蒙番組をテレビで放送

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国営テレビ『ドゥールダルジャン』は2016年12月上旬、電子決済に関する啓蒙チャンネル“DIGISHALA”の放送を開始。

特に、農民・学生・女性・下層階級・田舎の人々など、銀行口座やクレジットカードの利用が低い層をターゲットにしているとのことです。

”国を挙げての取り組み”とよく言いますが、本気度が違いますね。

 

その他取り組み 

 

その他にも様々な取り組みを実施・発表しています。

 

デジタル決済に対して各種割引を提供

  • 国営保険会社の保険料をオンライン支払いの場合8~10%割引く措置を発表(2016年12月)
  • 一般企業の給与支払いのキャッシュレス化を閣議承認(2016年12月)
  • 近い将来に高速道路の料金徴収100%電子化することを発表
  • 国営石油会社のガソリンスタンドでは、クレジットカードやデビットカードでの支払いに対してガソリンや軽油代の0.75%割引を開始(2016年12月~)
  • ガソリン割引を家庭用LPGにも拡大(2017年1月~)
  • 国鉄の乗車券購入に対し、電子支払いには1%の割引を適用(2017年1月~)
  • 将来的に電子支払いによる所得税の割引措置も検討中

 

各地方政府にも電子化施策は拡大している

  • 運転免許や自動車の車検証発行手数料などに電子決済の導入を決めた(デリー)

(出所)JIJI.com「「キャッシュレス経済」を推進せよ インド「高額紙幣廃止」の遠大な狙い」

 

ぶっ飛んだ施策の影響

 

では実際に効果はあったのか?

以下、事例をご覧ください。

 

電子決済最大手「Paytm」のスポークスマンによると、高額紙幣廃止から1カ月で同社の利用者は2,000万人増加し、1.7億人に到達

  • 2017年2月末に利用者数2億人を突破

 

インド全体のe-ウォレットの利用も1日当たり3.9億ルピー(約6.2億円)から23.6億ルピー(約37.8億円)に拡大

  • 携帯電話サービス・プロバイダー最大手で2.5億件の加入者を抱える「バルティ・エアテル」や競合「ボーダフォン」も、相次ぎe-ウォレットのサービスを拡充している

  • 2021年度までに電子決済におけるe-ウォレットのシェアが50%を超える見込み

POS端末利用の取引も同11.2億ルピー(約17.9億円)から175.1億ルピー(約280.2億円)へと、それぞれ急拡大

  • 国内に約150万台あるPOS端末が半年以内で2~3倍に増加する見通し

 

   【高額紙幣廃止発表前と後の電子決済量変化】

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全体的に圧倒的に伸びていますが、特に伸びている取引がUPIとUSSDですね。取引回数で約13〜14倍程度となっています。たった一ヶ月の伸びとしては、異常です。

 

UPI/USSDなどそれぞれがどういったものかの説明は長くなってしまうので割愛しますが、簡単にいうとインド政府が整備してしている決済プラットフォームです。

Paytmなどモバイル決済アプリの場合、異なるアプリ間では基本的に送金が出来ない仕組みとなっていますが、UPIやUSSDは自身の銀行口座に紐づくIDのようなものを利用し、口座間での送金を可能にしています。USSDは、ネット接続が無いガラケーでも利用可能となっており、スマホがまだ普及していないエリアでの利用率は高いでしょう。

 

その他、Rupay(インド版VISA/Master)やPOSなどの取引は2−3倍程度の伸びですが、これは

  1. UPI/USSDなど送金メインのシステムに比較して、買い物目的を主としている事
  2. デビットカード発行などに時間がかかる事(手続き面)

が主な原因かと推測しています。

 

現に、モバイル決済アプリの申し込み数は圧倒的に増加したようです。

「オラ」は、モディ首相の演説後15時間でチャージ額が15倍に膨れ上がり、同国オンライン決済最大手ペイティーエムは9日にアプリのダウンロード数が200%、取引量が250%増加、チャージ額が400%、取引額は1000%増加した。モビクイックは、19日までに今回の騒動以後で取引額が2500%増加したいう。

 (出所)突然の高額紙幣流通中止で全インドが混乱! 騒動のなか「漁夫の利」を得たのは?(2/3ページ):nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

 

日本も油断していられないかも?

激しすぎるインドの政策を紹介しましたが、結果的には良い方向に向かっているのではないでしょうか。

もし、「4時間後に1万円札を無効にする」なんて事を日本政府が言い始めたら、どうなるのか想像もつきません。そしてそれは日本では言えないでしょう。

逆に中国・インド、その他アジア・アフリカなど、国の経済や制度が未成熟であったりするほど、大胆な施策とテクノロジーの力により一気に国を発展する方向へ舵取り出来る。

日本ではよく「日本はやっぱり進んでいる」というような事を耳にしますが、こうした他国の現実はしっかりと認識しておくべきかなと最近思います。